薬屋のひとりごと小説版三巻のネタバレ。壬氏は本当に宦官なのか問題、決着

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漫画版の三巻は花街の心中騒ぎが中心でしたが、小説版の三巻はまったく別の話をしています。

漫画版と小説版は同じ原作を元にしながら、テンポと編集が大きく異なります。小説は情報量が多く、漫画一冊に相当するような出来事が、小説では数章分に圧縮されていることもある。だから「漫画の三巻を読んだ」と「小説の三巻を読んだ」では、把握している情報量がかなり違ってきます。

小説版三巻のキーワードは「壬氏は本当に宦官なのか」です。

これが決着します。

月の精:壬氏が女装する話

三巻の大きな見どころの一つが、「月の精」というエピソードです。

隣国・砂欧(シャオウ)の特使が、数十年前に祖父が見た伝説の妓女「月の精」の舞をもう一度見たいという無理難題を持ち込んできます。数十年前の妓女を今さら連れてこい、というのはどう考えても不可能な要求です。

しかしここで出てくるのが壬氏です。

壬氏は後宮を管理する宦官として、この「月の精」を再現することを引き受けます。そして月の精を演じたのは壬氏本人でした。女装です。

宦官だから男性ではあるのですが、美しすぎる宦官が女装すると何が起こるかというと、本物以上に「それらしく」なる。特使は完全に騙されて満足して帰ります。

ここで読者が抱く感想は主に二つだと思います。一つは「壬氏すごい」であり、もう一つは「猫猫の反応が見たい」です。

猫猫の反応は、だいたい予想どおりです。壬氏の美貌に驚くでも感嘆するでもなく、「そこそこの蛙」という評価を内心で下します。

「そこそこの蛙」とは何かというと、猫猫の中でのキャラクター評価です。後宮の女性全員が失神しそうになる美貌を持つ壬氏を「そこそこの蛙」と表現できる人間は、後宮広しといえども猫猫だけでしょう。壬氏にとっては心外この上ないはずですが、猫猫には悪意がないし、そもそも本人には伝えていません。

内心でこっそり人を「そこそこの蛙」と思っている人間が職場に一人いたとして、気づかれなければ問題ありません(問題ないとは言い切れませんが)。

茸中毒事件

小説版三巻のもう一つの柱が、茸(きのこ)による中毒事件です。

中級妃のひとりが、毒きのこが原因で顔がただれるという症状を発症します。

ただれた顔というのは、後宮の妃にとって致命的な問題です。後宮とは美しさが力の一形態である場所で、そこで顔の見た目が損なわれるということは、権力の源泉が失われることを意味します。

妃は自尊心を深く傷つけられ、最終的には毒を飲んで亡くなります。

猫猫はこの事件を調べることになります。毒きのこは確かに存在するし、症状もその毒性と一致する。しかし問題は「なぜこの妃がそれを摂取することになったのか」という部分です。偶然か、意図的なものか。

きのこは鮮やかな色のものが毒だと思われがちですが、実際には地味な見た目の毒きのこも多く、見た目だけでは判断できない。猫猫が「毒や薬の知識を持つ人間でなければ見抜けない」という状況が、今回も生きてきます。

一巻・二巻と続いた「見た目と実態の違い」が、今度はきのこで繰り返される。作品の構造が安定してきていて、読者としては「今度は何で来るか」という楽しみ方ができます。

壬氏は宦官なのか問題

そして三巻最大のトピックです。

宦官というのは去勢された男性官僚のことです。後宮に仕える男性が宦官であるのは、未婚の妃たちと同じ空間で働くためには「男性でない」ことが条件になるからです。

壬氏は宦官として後宮を管理しています。しかし一巻・二巻を通じて読者の中には疑問が芽生えていたはずです。「この人、本当に宦官なのか?」と。

その答えが三巻で出ます。

猫猫が事故により壬氏に乗り上げるという状況が発生し、そこで「明らかにそうではない」ということが猫猫に伝わります。物理的に。

これで答えが出た。壬氏は宦官ではありません。

では壬氏は何者なのか。後宮を管理する立場の、見た目は宦官として働いている、美しすぎる何者かです。この「何者か」については、三巻の段階ではまだ全てが明かされているわけではありませんが、猫猫の観察と推理によって「ただの宦官ではない」という確信が深まります。

ここで読者が思うのは「だから何なのか」という疑問です。宦官でないとして、それは壬氏のどういう立場を意味するのか。権力構造の中でどういう位置にいるのか。その輪郭がぼんやりと見えてきます。

猫猫が皇帝・皇太后に呼び出される

三巻ではさらに、猫猫が皇帝と皇太后から直々に呼び出されるという事態も起きます。

後宮の下女から妃付きの侍女に引き上げられた猫猫が、今度は皇帝と皇太后の前に出る。立場がどんどん上がっています。本人がまったくそれを望んでいないのにもかかわらず。

謎に巻き込まれる → 解決する → 目立つ → もっと大きな案件に巻き込まれる。このサイクルが加速しています。

「有能な人間は損をする」という普遍的な現象が、後宮スケールで起きている。猫猫は薬草と毒が好きなだけなのに、なぜかどんどん宮廷の深いところへ引っ張られていく。

漫画版との大きな違い

漫画版の三巻は花街の心中騒ぎでした。小説版の三巻は月の精・茸中毒・壬氏の正体と、まるで別の作品のような内容の差があります。

これは漫画版が小説に追いつくには膨大な巻数が必要だということを意味します。実際、ある情報によれば小説版四巻分の内容が漫画版では十数巻以上に相当するとのことです。そのくらいテンポが違う。

漫画で「これから何が起こるんだろう」と楽しんでいる方には、小説版は「先の展開のネタバレ」になります。しかし逆に、「続きが待ちきれない」方には小説版が最速のルートです。

どちらで読むかは好みの問題ですが、情報量でいえば小説版は圧倒的に多い。絵の力でいえば漫画版が猫猫も壬氏も「見える」という強みがあります。

まとめ

小説版三巻のネタバレをまとめると、以下のとおりです。

  1. 隣国の特使が「月の精」という伝説の妓女を所望し、壬氏が女装して再現する
  2. 猫猫が壬氏を内心「そこそこの蛙」と評価する(本人に伝わっていない)
  3. 中級妃が毒きのこで顔がただれ、自尊心を傷つけられて亡くなる
  4. 猫猫が事故により壬氏が宦官でないことを「体で」確認する
  5. 皇帝・皇太后から猫猫が直接呼び出される

漫画版三巻が「花街の謎解き」なら、小説版三巻は「壬氏という人物の正体に一歩踏み込む」巻です。構造として謎解きより人物への踏み込みが多く、後宮の政治的な文脈も色濃く描かれます。

猫猫が壬氏を「そこそこの蛙」と呼ぶ場面は、読んでいると笑えます。しかし笑いながら読んでいると、気づけばこの二人の関係が気になってたまらなくなっている。それがこの作品のうまいところです。