読者の間で「過去一の衝撃巻」と言われることがある十一巻です。
衝撃の理由は、予想外の展開があるというより、展開の振れ幅と描写の密度にあると思っています。読み終えた後に「こうなるとは思っていなかった」という感覚が残る。それがこの巻の力です。
玉鶯という人物
蝗害後の混乱を利用して動き出したのが、西都の実力者・玉鶯です。民の怒りが「助けてくれない中央」である壬氏に向かうなか、玉鶯はその怒りを他国への戦争へと誘導しようとします。
「敵を作ることで民の不満を外に向ける」という古典的な政治手法です。歴史の教科書に出てきそうな話なのに、目の前でそれをやられると嫌な説得力があります。
玉鶯が単純な悪人ではないところがこの巻を重くしています。英雄的な父を持ち、自分も英雄になりたいという渇望を持って生きてきた人物です。その夢が、蝗害後の混乱という舞台と重なったとき、最悪の方向へ動いた。夢が人を傷つけることがある。そういう話です。
陸孫の出自が明かされる
十巻から意味深な動きを見せていた陸孫が、族滅された「戌の一族」と繋がっていることが十一巻で明らかになります。
これがわかると、陸孫がなぜ農業の慣行を調べていたのか、なぜ特定の情報に敏感だったのかが一気に腑に落ちます。過去の事件が今の人物の動機を作っている、という構造がここでも機能している。遡って読み返したくなる種類の明かし方です。
壬氏が動く
玉鶯の計画は最終的に壬氏によって制されます。「御旗」として象徴的な存在にとどめられていた壬氏が、ここで動く。
玉鶯は自分が思い描いた「英雄の劇」を最後まで演じることができずに失脚します。英雄になりたかった男が、英雄になれなかった。それが悲劇なのか自業自得なのかは、読む人によって変わると思います。私はどちらでもあると思って読みました。
まとめ
小説版十一巻のネタバレをまとめると、以下のとおりです。
- 蝗害後の混乱で民の怒りが壬氏に向かい、西都の治安が悪化する
- 玉鶯が民の不満を利用して他国との戦を煽る
- 陸孫の出自(族滅された戌の一族との関係)が明らかになる
- 壬氏が動き、玉鶯の計画を制する
- 玉鶯は「英雄になりたかった男」としての末路を迎える
十巻で「自然災害と人災の予感が同時に進行する」と書きましたが、十一巻でその両方が一気に動きます。西都編の大きな山がここで越えられます。十二巻で締められ、都への帰還が待っています。
